個人再生を選ぶかどうかの判断基準
借金が返せなくなった時に使える債務整理の方法は4種類あります。
特定調停、任意整理、個人再生、自己破産です。
そのうちの、個人再生を選ぶかどうかの判断基準について解説します。
住宅ローンがからんでいる事ですので、間違いは許されません。
「個人再生を選ぶかどうかの判断基準」では、次の3つのテーマで「個人再生手続き」に関連したお話をします。
・個人再生を選ぶ判断基準
・個人再生は自己破産とどこが違うのですか?
・特定の債権者に弁済してから個人再生の申立は可能ですか?
個人再生を選ぶ判断基準
この質問に対しては、「個人再生を選ぶ統一的な基準などというものはありませんが、専門家の多くは3つのポイントで判断しているようです」というのが答です。
この「3つのポイント」は、次のとおりです。
・借金の総額はいくらか。
・ローン返済中のマイホームを持ち続けるかどうか。
・身内からの借金や身内が保証人になっている借金はあるか。
このサイトでは、これらが「なぜ、個人再生を選ぶ際のポイントになるのか」を説明しましょう。
①借金の総額はいくらか。
任意整理は、通常、3~5年程度での完済が求められます。
ですので、現在の借金を36~60回で返済できるかどうか任意整理を選択する際のポイントです。
たとえ安定した収入があってある程度の月額であれば返済可能でも、任意整理では月々の返済額が大きくなることから返済の原資が足りない可能性があります。
こうした場合は、任意整理ではなく個人再生が選択されるのが通常の選択です。
個人再生であれば、借金総額が大幅に減額されることから、任意整理よりも毎月の返済額を抑えられます。
②ローン返済中のマイホームを持ち続けるかどうか。
ローン返済中のマイホームを持ち続けられる債務整理は、任意整理か個人再生のいずれかです。
任意整理:住宅ローンの減額は可能性がないので整理対象から除き、従来どおりローンの返済を続ける。
個人再生:借金の大幅な減額を実現し、「住宅ローン特則」で返済スケジュールの組み直しが認められる。
任意整理でもマイホームを持ち続けられる可能性はありますが、借金の減額が少ないので、手続き後に従来どおり住宅ローンとその他の借金の返済は困難といえるでしょう。
③身内からの借金や身内が保証人になっている借金はあるか。
債務整理を行うことで、債務者は借金が減額されます。
しかし、債務者から減額された借金については、保証人に返済義務が発生します。
身内からの借金や身内が保証人になっている借金がある場合の債務整理は、基本的に任意整理が採用されます。
つまり、身内からの借金や身内が保証人になっている借金については、債務整理の対象から除外するのです。
それができるのは任意整理だけで、個人再生や自己破産では同様な処理はできません。
個人再生は自己破産とどこが違うのですか?
質問にある個人再生と自己破産は裁判所を介した債務整理でという共通点があるものの、実際には全く異なる債務整理手続きです。
個人再生と自己破産の違いをいう場合、一般に「個人再生のメリット」として挙げられる点がすなわち自己破産との違いであるといわれます。具体的には次のとおりです。
①自宅が残せる:「住宅ローン特則」を利用すれば、住宅ローンだけは払い続けることでマイホームを持ち続けながら、他の借金は大幅に減らしたいという希望を実現できます。
しかし、自己破産ではマイホームを持ち続けることはできません。
②免責不許可事由があっても債務整理できる:免責不許可事由があれば自己破産は不可能ですが、個人再生では借金ができた理由を問われることはありません。
③途中で支払いを終われる制度がある:やむを得ない事情で完済できなくなった時、返済計画の4分の3以上払い終えていれば、そこで支払いを終われる制度(ハードシップ免責)があります。
自己破産における免責は、手続き完了時点で行われるものです。
これらを含め個人再生と自己破産にはさまざまな違いがありますので、質問に対する答を兼ねて、一覧表にして紹介しておきます。
特定の債権者に弁済してから個人再生の申立は可能ですか
質問にあるような行為を、債務整理では「偏頗弁済」といいます。
「偏頗」とは「かたよった」という意味ですから、偏頗弁済というのは、ある特定の債権者にだけ返済する行為のことです。
「特定の債権者にだけ利益を与える意図」または「それ以外の債権者に損害を与えようという意図」の下に、義務もないまたはそのときに支払う必要もないのに、特定の債権者にだけ支払いをしたり担保を設定したりする行為を(非義務的)偏頗行為といいます。
偏頗弁済は、「債権者平等の原則」を守るために民事再生法や破産法では禁止されているものです。
債権者平等の原則とは、複数の債権者がいるとき、それらの債権者は債権の種類・時期・金額に関係なく、平等に返済を受けられるという原則です。
たとえば、他の債権者には支払いをしないにもかかわらず家族や友人にだけ支払いをした、といった場合がこれに当たります。
家族や友人からの借金と貸金業者からの借金は平等に扱われる必要があり、個人的な事情で偏った返済をすることは認められていないのです。
このような偏頗行為は自己破産手続きにおいては、「免責不許可事由」とされています。
したがって偏頗行為があった場合は、原則として借金は免責されません。
では、どのくらいの時期からの返済が、偏頗弁済と見なされるのでしょうか?
裁判所に申立をする何日前からが偏頗弁済になる、というような具体的な決まりはありません。
弁護士に債務整理を依頼する前であっても、借金の返済が滞っている状況で特定の債権者に返済した場合には、偏頗弁済と見なされる可能性が高いようです。
しかし個人再生の場合には、偏頗弁済された金額が清算価値に加算されて最低弁済額が決まることから、個人再生申立前の偏頗弁済は特に問題ではないのです。
偏頗弁済された金額が清算価値に加算されるのは、債権者平等の原則を図るために行われているといえます。
ただし、再生計画案を作成するときも偏頗弁済を考慮した弁済額でなければ、再生計画案が認可されなくなる可能性があります。
個人再生に関して知っておきたいこと・用語編
「個人再生」に関連して使用される専門用語を紹介します。
個人再生を理解紹介するうえでお役立てください。
なお用語の中には、他の債務整理手続きにも共通に使用される用語も含まれている点をご承知おきください。
①個人再生
個人再生は借金の返済ができなくなった人が債権者に返済総額を削減してもらい、残った借金を再生計画に基づいて3年間で分割して返済する債務整理手続きの1つです。
2001年に開始された比較的新しい手続きの個人再生は、借金が削減される額が、任意整理との一番の違いといえます。しかし、裁判所への申立が必要な点は自己破産と同じですが、借金がゼロになることはありません。
個人再生の大きな特徴は、借金の大幅な減額よりもイホームを残せることです。
住宅ローン特則(正式には「住宅資金貸付債権に関する特則」)と呼ばれるこの制度は、住宅ローンなどの返済を続けることでマイホームを持ち続けながら他の借金を個人再生できる制度です。
②小規模個人再生
個人再生には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの手続が用意されています。
個人再生のうちでも基本型が小規模個人再生で、その特則が給与所得者等再生です。
基本類型の小規模個人再生の方が、給与所得者等再生よりもメリットが大きい部分があります。
そのことから、給与所得者であってもこの小規模個人再生を利用するのが一般的で、個人再生をする人の9割が、小規模個人再生の利用者です。
この小規模個人再生を利用するためには、次の2つの条件を満たしていなければなりません。
・将来に渡って継続的に、または反復して収入を得る見込みがある。
・住宅ローンを除いた借金総額が5,000万円以下である。
③給与所得者等再生
給与所得者等再生とは、個人再生で用意されている2つの手続きのうちの1つです。
個人再生を利用できる債務者のうちでも、収入が特に安定している給与所得者等についてだけ認められる特別の手続が、この給与所得者等再生といえます。
ところが小規模個人再生の方が利用しやすくメリットも大きいことから、個人再生を希望する債務者の1割程度にしか利用されていません。
この小規模個人再生を利用するためには、次の3つの条件を満たしている必要があります。
・将来に渡って継続的に、または反復して収入を得る見込みがある。
・住宅ローンを除いた借金総額が5,000万円以下である。
・定期的な収入の増減の幅が小さいと見込まれる。
④住宅ローン特則
「住宅ローン特則」は、正式には「住宅資金貸付債権に関する特則」といわれるものです。
住宅ローン特則とは、住宅ローンの返済を従来どおり続けることでマイホームを持ち続け、それ以外の借金を個人再生で減額・分割払いできる制度のことをいいます。
住宅ローンが払えなくなると債権者によって競売にかけられるのが一般的ですが、住宅ローン特則を利用すればマイホームを手放さないですむのです。
もっとも、住宅ローンを個人再生の対象外にすると、借金減額の対象になりません。
そのため、個人再生後は借金の返済と住宅ローンを合わせた返済をしなければならないことから、それに見合った収入を確保できることが条件です。
⑤個人再生委員
個人再生委員とは煩雑な個人再生手続きをサポートしてくれる人のことで、個人再生の申立を行った場合、裁判所の判断で個人再生委員が選ばれることがあります。
東京地方裁判所以外の裁判所では、弁護士が代理人になって申立を行った場合は個人再生委員がつかず、本人で申立を行った場合に個人再生委員が選ばれるのです。
選出された場合、個人再生委員は第三者的な見地から申立人の指導や監督・財産や収入状況を調査・再生計画案作成の助言などを行ったりします。
裁判所で個人再生委員が選ばれた場合、申立の費用とは別に個人再生委員への報酬が15~25万円必要です。
この費用の支払いは、申立から6カ月間で行わなければなりません。
⑥任意売却
任意売却とは、借金を返済できなくなった場合は債権者と債務者で話し合い、担保物件の処分を競売ではなく任意で売却する方法です。
一般に住宅ローンなどの返済を滞納や延滞すると、債務者はローンを分割で返済する権利(期限の利益)を失います。
そこで債権者は、残っている住宅ローンの全額を一括で返済することを要求してくるのです。
残債務を一括返済できないと、債権者は裁判所に対し担保になっている住宅の競売の申立を行い、その売却代金から債権を回収します。
しかし、競売による不動産売却は現金化までに時間がかかるうえ市場価格より安くなってしまうのです。
そこで不動産会社を利用して、一般市場で担保不動産を売却します。
⑦再生計画
個人再生によって減額された借金を、3~5年間以内に各債権者に対してどのように返済していくかの計画を記載し、裁判所に提出する書面を「再生計画案」といいます。
再生計画案は、引き直し計算で確定した借金額をもとに、再生計画基準にしたがって債務者などが策定して裁判所に提出するものです。
計画案が債権者集会で可決され、再生計画認可の要件を満たしているとして裁判所によって認可されたものを「再生計画」といいます。
借金の減額や分割返済の回数などは、民事再生法で具体的に決められているわけではありません。債務者と債権者の交渉によって決定されます。
再生計画が認可されれば、債務者はそれにそって返済していくだけです。
⑧再生計画案の決議
個人再生手続きにおいては、債務者は再生計画案を作成して裁判所に提出しなければなりません。
その後、再生計画案は債権者集会で債権者の決議にかけるということは、再生計画案を了承できるのかどうかを債権者に問うということです。
個人再生のうち「小規模個人再生」において再生計画案の決議は行われますが、「給与所得者等再生」での決議は行われません。
小規模個人再生の議決は、書面で行われるのが一般的です。
この議決では、議決権のある債権者が再生計画案に同意する場合は、書面を提出する必要はありません。
これに対し不同意の場合には、回答期間内に「不同意回答書」を提出する必要がありします。
⑨最低弁済基準額
個人再生は裁判所に申し立て、返済できない借金を一定の基準に基づいて減額し、原則として3年間(特別の事情があれば最長5年間)の分割払いにする手続きです。
しかし、最低限弁済しなければならない弁済額には一定の基準があります。
その1つが、小規模個人再生・給与所得者等再生のいずれにも適用される「最低弁済基準額」です。
最低限返済しなければならない金額は借金総額によって、次のとおり違いがあります。
・100万円未満:借金の全額(減額されない)
・100万円以上500万円以下:100万円
・500万円を超え1,500万円以下:借金総額の5分の1
・1,500万円を超え3,000万円以下:300万円
・3,000万円を超え5,000万円以下:借金総額の10分の1
⑩解約返戻金
保険契約者が自ら契約を解約したり保険会社から契約を解除されたりした場合などに、保険契約者に対して払い戻される金銭のことをいいます。
解約返戻金という場合、生命保険の解約返戻金をさすのが一般的ですが、火災保険や自動車保険(自賠責保険を除く)もその対象です。
自己破産の場合には、解約返戻金が20万円以上ある生命保険は原則として解約し、債権者への返済に充てられることになります。
個人再生の場合には、生命保険を解約して解約返戻金を債権者への返済に充当する必要はありません。
しかし、全ての保険の解約返戻金を財産目録に個人の財産として記載し、「清算価値」として裁判所に申告する必要があります。
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