特定調停なら任意整理よりも安く債務整理ができる
以下では、特定調停に関して3つお話します。
- 特定調停の手続はどんな流れで進むのか?
- 特定調停が成立した場合の効力と、その効力を無効にできるケース
- 特定調停と過払い金請求について?
特定調停の手続はどのような流れで進むの?
特定調停の手続きは、一般的には次のような流れですすめられます。
特定調停が成立した場合の効力と、その効力を無効にできるケース
特定調停では、裁判所が選任した「調停委員」を仲介役となって返済方法を話し合い、債務者・債権者の双方の合意が得られれば調停が成立して「調停調書」が作成されます。
裁判所が作成する調停調書は、合意内容を記した公的な文書として債務者に給付義務を強制的に履行させる強い法的効力があります。
つまり、調停調書は「債務名義」の一つであり、裁判の確定判決と同じ強制執行力があるのです。
ですから、調停成立後に調停調書に従った借金返済をしないで滞納したりすると、債権者は訴訟ではなく給与の差押えや没収などの強制執行ができます。
このように調停調書は債務名義にもなる強い効力があるので、滞納だけは何としても避けなければなりません。
返済を2回以上滞納すれば、債権者には強制執行ができる権利が認められています。
ですので、「無理のない返済計画を立てた上で調停を成立させること」とともに「調停調書で決められた通りに完済するという強い覚悟」が債務者には必要です。
すでに述べてきたように、調停調書は調停委員を仲介役に債務者と債権者が返済方法を話し合い、両者が歩み寄って和解することで成立する債務整理の手続きの1つといえます。
そのため、調停調書の内容はお互いが十分に確認・納得のうえで合意したものとみなされます。
そのことから調停成立後に小さな計算ミスや数字の記載ミスなどに気が付いても、原則として決定を覆すのは困難です。
しかし例外的に、調停調書の効力を無効にできるケースがあります。
具体的には、債権者が悪質であったり提出した計算書の内容に虚偽があったりしたことが発覚した場合は、調停調書の無効を主張が可能です。
なお、特定調停において話し合いで解決に至らない場合は、「調停に代わる決定」として裁判所から「17条決定」が出されます。
17条決定は双方の合意による調停が難しい場合、民事調停法の17条に基づいて出される裁判所の決定です。
17条決定が出されてから2週間以内に意義申し立てがなければ当事者は内容に合意したことになり、調停成立と同じ効力が発生します。
特定調停と過払い金請求について
まず押さえておかなければならないのは、特定調停手続きでは過払い金請求ができないという点です。
特定調停は、あくまで借金の支払い方法について、調停委員を仲介人にして債務者と債権者が話合いによって決め直す手続きであり、相手に対して過払い金などを請求する手続きではありません。
債務者にしてみれば、せっかく裁判所の調停を利用して債権者と話し合いをするのだから、その席で過払い金について請求できれば好都合です。しかし、実際には特定調停手続き内では過払い金請求はみとめられていないのです。
特定調停手続きにおいても、手続きの最初に借金額を確定させる必要があることから、発生していれば過払い金が確実に見つかります。
しかし、同じ特定調停手続き内では過払い金請求ができないのですから、別な手段で過払い金の返還を請求しなければなりません。
では、どのような方法で過払い金を請求すればよいのでしょうか?
具体的には、次のような方法が使えます。
①調停外で払い金返還請求をする。
特定調停中に過払い金が見つかった場合、調停外で対象となる債権者に対して直接過払い金の返還を請求し、個別に交渉をするのです。
この場合、すでに特定調停中の法引き直し計算は終わっているのでそれに基づいて過払い金請求書を作成・送付し、対象となる債権者と過払い金の返還金額や返還方法を交渉します。
この交渉で過払い金返還について合意ができたら、その内容で合意書を作成した上で過払い金の返還を受けます。
②過払い金返還請求の訴訟を起こす。
特定調停中に過払い金が見つかった場合、調停外で対象となる債権者に対して過払い金請求訴訟を起こす方法もあります。特定調停とは全く別の手続きとして、交渉のステップを飛ばして裁判手続きを開始するのです。
過払い金請求訴訟によって和解ができた場合や債権者に対して支払い命令の判決が出たら、その内容に沿った過払い金の返還を受けられます。
とはいえ、特定調停と過払い金請求訴訟を並行して行うのは、日常的に自由な時間のない人には不可能でしょう。
③特定調停後に過払い金請求をする。
特定調停が終わった後の過払い金請求については、請求できないとの誤った情報もありますが、問題なくできます。
ただし、特定調停の合意内容や合意方法によっては、「片面的精算条項」などで過払い金請求権が封じられてしまうケースがあるので注意が必要です。
特定調停なら任意整理よりも安く債務整理ができる:まとめ
特定調停が成立した場合の効力と、その効力を無効にできるケース
・裁判所が作成する調停調書は、「債務名義」の一つであり、裁判の確定判決と同じ強制執行力がある。
・調停調書は債務名義にもなる強い効力があるので、滞納だけは何としても避けなければならない。
・調停成立後に小さな計算ミスや数字の記載ミスなどに気が付いても、原則として決定を覆すのは困難
・しかし債権者が悪質、提出した計算書の内容に虚偽があった場合は、調停調書の無効を主張が可能
・話し合いで解決に至らない場合は、裁判所から出される「17条決定」で調停成立
特定調停と過払い金請求について
・特定調停は借金の支払い方法を話合いで決め直す手続きであり、過払い金請求はできない。
・具体的には、過払い金を請求は次のような方法で行う。
①調停外で払い金返還請求をする。
②過払い金返還請求の訴訟を起こす。
③特定調停後に過払い金請求をする。
特定調停を理解したり検討したりするうえで役立つ特定調停に関連する用語を解説します。
なお、これらの中には特定調停だけではなく他の債務整理手続きにも共通して使用される用語も含まれていますので、その点をご承知おきください。
①簡易裁判所
簡易裁判所は裁判所の中で最下級に位置し、被害や損害が少ない民事や刑事の事件を、時間をかけないで処理するための裁判所で、全国に438カ所あります。
裁判は裁判官が1人で行い、判事は一定の経歴や学歴があれば司法試験に合格していない者でも受任資格がある裁判所です。
簡易裁判所では、裁判所法第33条により、以下の事項について、第一審の裁判権を持っています。
・訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求
・罰金以下の刑に当たる罪、選択刑として罰金が定められている罪(以下省略)
これらの他には、小額訴訟・起訴前の和解・民事調停・督促手続・交通事件即決裁判手続、令状の発行なども行っています。
②特定調停法
正式名称は「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」といい平成12年2月から施行された法律で、簡易裁判所が管轄しています。
従来から行われてきた、「債務弁済協定の調停手続」を改良したもので、返済が困難な債務者と債権者との間に裁判所から選任された調停委員が入って調整をしていく制度です。
この法律には、次のような特徴があります。
・債権者の住所が異なる場合も一つの裁判所でまとめて処理が可能になってきまる。
・無担保による民事執行手続きの停止が認められる場合がある。
・制裁付きの「文書提出命令」を出してもらえる。
・公正かつ妥当で経済的合理性のある和解案が提示される。
③特定調停取下書
特定調停の申立は、必ずしも調停が完了するまで行わなければならないわけではありません。
特定調停は、いわゆる「借金が帳消しになる自己破産」と違い、債務者の返済を前提にした債務整理手続きです。ですから、調停委員が返済の可能性が低いと判断すれば、申立人に「取下げ」を勧めるケースがあります。
また、特定調停では、手続が終了するまでであれば、申立人は自由に申立の取下げが可能です。
具体的には、申立人が「取下書」に必要事項を記載して裁判所に提出すれば、特定調停は取り下げられて手続きは終了します。
用紙は裁判所のホームページからダウンロードでき、取下げが申立の「全部か一部か」を選択するだけです。
④債務額確定調停
「債務額確定調停」といいながら、債務者が支払うべき債務額は調停の前に確定しています。
特定調停では、各裁判所によって若干の違いはありますが、まずは調停に先立って引き直し計算を行い。債務者の正確な債務額(借金額)を算出して確定させます。
この調停が開始される前に確定した債務額をもとに、裁判所は債務者と債権者の調停委員を介しての債務額確定調停が行われるのです。
債権者は引き直し計算した金額よりさらに減額を期待しますし、債権者は引き直し計算した金額より多い金額での和解を期待します。
しかし、債務額確定調停では引き直しで算出された債務額で和解し、毎月の返済額や期間が話し合われるのが一般的です。
⑤債務不存在確認訴訟
債務不存在確認訴訟とは、権利の存否に紛争がある場合に、債務者とされている者が原告・債権者とされている者を被告とした裁判です。
「債務者と債権者の間に、債務が無いことを確認する訴訟」ではありません。「債務者と債権者の間の債務額はいくらであり、それ以上の債務は存在していないことを確認するための訴訟」です。
つまり、債務者の債権者に対する債務額はいくらであってそれ以上の債務はない、という事を裁判所に確認してもらう訴訟といえます。
この訴えが認められて、債務額はいくらであるという判決が下されると、債権者はこれ以上の債権を主張請できなくなってしまうのです。
⑥期限の利益
期限の利益とは、要約していえば「期限がくるまでは、債務の履行をしなくてもいい利益」のことです。
つまり、期限の到来まで債務の履行をしなくてもいいというのは、約束をした返済日までは借り入れた債務者にはその資金を自由にできる権利を得たことになります。
こうしたことから、期限の利益は債務者のためにあるといわれるのが一般的です。
たとえば借主(債務者)が、貸主(債権者)から「100万円を、月額10万円とその利息を10回払いで返済する条件で借金したケース」を見てみましょう。
それぞれ毎月の返済期限までは、債務者は借金を自由に利用できる(返さなくてよい)権利を得たことを意味します。これが「期限の利益」です。
⑦期限の利益の放棄
期限の利益の放棄は債務者の意思で行う行為ですが、民法136条2項にもとづいて行えます。ただし、その際には、債権者の利益を害することは禁じられています(同法136条2項ただし書き)。
たとえば返済期日を決めていた場合、債権者には返済期日までの利息を得る利益があるものの、債務者が期日前に一括返済をすると債権者の利益を害します。
この債権者の利益を保護するため、債務者は期限の利益を放棄することは可能ですが、その際には元本と返済期日までの利息を含めて返済する必要があるとされています。
このように、債権者の権利を守りながら債権者自身の意思で期限の利益を放棄することを「期限の利益の放棄」といいます。
⑧期限の利益の喪失
期限の利益には債務者の意思で「放棄」できるケース同様に、債務者に一定の事由が生じた場合、債務者は期限の利益を主張することができなくなります。
具体的には、民法137条に定められているとおりです。
また、こうした民法の規定以外にも、特約によって期限の利益喪失事由を定められます。
たとえば、多くの金銭消費貸借契約に規定されているように、「期限までに返済が行われない場合、債務者は期限の利益を失い、債務の残額を一括で支払わなければならない」とったものです。
こうした事由で債務者が期限の利益を喪失した場合、債権者は債務者に対し、すぐに債務を履行(返済)するよう請求できます。
⑨消滅時効
消滅時効とは、債権者が債務者に対して債務の履行や請求などをしないで法律で定める一定期間が経過した場合に、債権者の法的な権利を消滅させる制度のことです。
表現を換えると消滅時効とは、「ある権利がないという事実状態が一定期間継続した場合」、その事実状態こそが正しい状態と見なす、という制度です。
権利が行使されない一定期間に相当する時効期間は、貸主が消費者金融や銀行の場合は5年で貸主が個人である場合や信用金庫の場合は10年です。
たとえば、消費者金融から借金をしたが5年間にわたって請求がなく、また債務者から返済の意思を示さなかった場合は、債権者の債権の履行を求める権利は消滅してしまうのです。
⑩消滅時効の援用
時効成立に必要な期間が過ぎたからといって、自動的に債権者の権利が消滅してしまうのではありません。
消滅時効に確定的な権利消滅の効果を生じさせるためには、時効を主張する者が、消滅時効を援用する必要があります。
援用というと難しく思われますが、要するに「時効を迎えたことの利益を利用します」と宣言することです。
この消滅時効の援用の方法については、特別な手続方法は定められていません。
一般的には「消滅時効の援用」をする旨の内容を記載した書面を、「内容証明郵便」で郵送する方法が採用されています。
内容証明郵便とは、「だれが、だれ宛てに、いつ、どのような内容か」ということを郵便事業株式会社が公的に証明してくれる郵便(手紙)です。
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